本研究では、従来から用いられている静脈認証での"なりすまし"の可能性、認証システムとしての脆弱性を指摘し、さらに、なりすまし耐性を有する新しいバイオメトリック認証として、人間の動的要素を付加した静脈認証を提案することを目的としている。動的要素を付加することによりなりすまし耐性を有し、連続的な二次元画像情報から、三次元の形状情報を再構築することで更にセキュリティが向上すると考えられる。本研究の目的を達成するために明らかにする課題は、(Step1)静脈パターン画像取得のための実験装置構築と基本アルゴリズムの作成、(Step2)静脈認証におけるなりすまし検証実験、(Step3)動的要素を加味した照合のアルゴリズムについての検討、の三つである。これら三つの課題を、研究計画に従い遂行している。本年度は(Step2)および(Step3)の基本部分を検証した。 人間の静脈パターンは体の内部にあるもので、この情報を盗み出して正規ユーザになりすますことは、一般的に困難とされている。これまでに静脈認証において、なりすましが成功したという報告はないものの、従来の研究において静脈認証の脆弱性を指摘するものがあった。本年度は、従来の研究を参考にしながら様々な物質の偽指を作成し、検証実験を行った。この実験では、登録静脈パターン画像は何らかの方法(フィッシングやスキミングなど)で得られたものと仮定して偽指の作成を行っている。また、この実験では、平成21年度に構築した実験装置・基本アルゴリズムを用いている。この検証実験を通して、前述の条件であれば、認証システムのしきい値の設定によって偽指がシステムを突破してしまうことが確認された。さらに本年度は、以上の研究内容と、動的な要素を静脈認証に付加する認証法の展開として、これまでの生体認証に動的な要素を付加する方法を体系化したものを、国際学会で発表し、論文にまとめた。
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