研究概要 |
本研究計画の目的は,発声の聴覚フィードバック制御の神経メカニズムを明らかにすることである。実験動物を使用することで,ヒトを対象には研究が困難である「脳幹部の神経ネットワークによる聴覚-発声制御のメカニズム」の解明を目指す。その成果は,発話障害の理解を助け,障害の治療法の開発に必要となる発声制御に関する基礎的な知見を与えてくれると期待できる。 2010年度は哺乳類において発声器官の筋肉を直接制御する脳幹の神経核(疑核)が発声の音響構造をどのように支配するかを,キクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)をモデル動物として,神経活動を局所的(±300μm)に変化させる物質(MuscimolおよびKynurenic Acid)を注入し調べた。結果,発声の周波数は疑核の内腹側,持続時間,発声間隔は疑核の外背側において制御されることが分かった。また発声周波数の実時間フィードバック制御に関与すると考えられる部位(ICXおよびBIC)について昨年度に引き続き機能的・解剖学的同定をおこなった。上述の実験と同様の手法を用い検討した結果ICXおよびBICにおいてGABAが聴覚フィードバックのゲインを制御することが分かった。 これらのコウモリで得られた結果が哺乳類全体に一般化可能であるかを検討するため,聴覚生理学の標準モデル動物であるスナネズミを被験体とし,彼らの発声行動を録音・録画し解析をおこなった。結果,彼らは超音波上昇FM音(25-35kHz)を最も頻繁に発声し,音響構造においてFMコウモリの発するする音声と類似すること,発声周波数が発声個体の体重を伝える可能性があり,周波数を±7%程度の精度で制御していることが分かった。今後,個体数の確保等の問題でコウモリを対象には実施困難な研究についてスナネズミの超音波発声もモデルとして実験を進めていくことも可能であろう。
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