研究概要 |
本研究では,足からの触覚刺激と歩行動作との関係に着目し,触覚刺激の遅延が歩行動作に及ぼす影響を明らかにし,転倒予防の指針となる新たな知見を探ることを目指している.研究実施初年度の主な目的は,解析用の歩行御モデルの作成と基本的な考え方を検証するとともに,次年度以降の分析・解析に使用する測定データの蓄積であった.具体的には以下のように実施した. 1. 末梢性神経障害患者の歩行モデリング・シミュレーション:末梢性神経障害患者の基本的なバランスコントロールシステムは健常者と同じであり,相違点は,センサ・モータニューロンの遅延のみであると仮定して,2次元剛体歩行リンクモデルを構築した.歩行計測データを基に各関節のトルクを計算して与えた.センサからのフィードフォワード入力と,モータへの出力に遅延を与えることで末梢性神経障害患者の歩行をモデル化した.MATLAB/Simulinkに実装し,遅延率を変更することにより,末梢性神経障害患者の重症度と転倒の危険率との関係をシミュレートすることが可能となった. 2. 歩行中の足底触覚刺激の量の変化に伴う不整地歩行運動の計測・データの蓄積:既往の寒冷療法を応用し,局所的に神経の発火頻度の低下,皮膚受容器の鈍化,筋のトーンの低下を各被験者に施し,末梢性神経障害を模擬する.整地より不整地のように歩行中に摂動がある場合の方が触覚刺激の影響が大きいはずである.モーションキャプチャ装置を用いて,整地と木片とカーペットで作成した不整地での歩行動作の計測・データの蓄積を行った.整地での歩幅,歩隔,歩行速度には有意な差が出なかったが,冷却前後での不整地歩行では,歩行速度,歩幅が統計に有意に減少した.計測結果より足裏への局所的に神経の発火頻度の低下,皮膚受容器の鈍化が不整地での歩行に影響を与えるという新たな知見を得た.
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