手首運動中の筋電信号から筋骨格系の運動プリミティブを抽出し、それを基づいた新しい運動の計画や生成が可能なモデルを作るためには、手首運動とその原因の運動指令である複数の筋活動との関係を詳細に分析する必要がある。初年度には各運動プリミティブ間の筋活動パターンから「運動プリミティブの滑らかな組み合わせ」に対する脳内のメカニズムを運動指令レベルから明らかにし、「単純な運動指令の滑らかな組み合わせ」で様々な新しい運動が生成できる手首運動制御モデルを作ることを目指した。特に様々な運動プリミティブをもつ手首運動において、筋活動とキネマティクスの因果関係を関節トルクレベルから同定を行い、運動中の筋活動から運動制御における機能的な意味を抽出した。実験の結果として、単純な運動指令(一つの運動プリミティブ)で行われるStep-tracking運動では主に静止ターゲットに対する位置制御が行われることに対し、複数の運動プリミティブの滑らかな組み合わせをもつ追跡運動では滑らかに動くターゲットの動きを再構成するために位置と速度制御を同時に行っていることが明らかになった(Lee et al. Mobiligence 2009)。この結果から解釈すると、運動プリミティブの生成に対する脳内のメカニズムの基本は単純な位置制御として計画され、複数の運動プリミティブを滑らかに組み合わせるために速度制御が並列に付加されることが明らかになった。さらに我々はこの解析方法を東京都立神経病院の入院患者の協力を得て、小脳疾患における運動プリミティブの病態についても検討し、小脳疾患のタイプの違いによる筋骨格系の運動プリミティブの特徴が病態の解明や評価に役に立つことが認められた(国内特許を出願する予定)。今後は運動プリミティブの正常-疾患比較の観点からプリミティブ生成に関わる中枢神経機構の解明を試みる。
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