本研究の目的は「環境の色が心身へ及ぼす影響を唾液中のホルモン・免疫(バイオマーカー)により評価する」ことにある。学術的には、従来の生理心理研究で用いられてきた脳波・心電図・血圧に加えて人間の免疫・内分泌系の指標を新たな評価軸として導入し、その評価指標としてのフィージビリティー・スタディを行うことにある。したがって本研究では従来指標(脳波・心電図・血圧など)と同時に生理機能の異なる7種のバイオマーカーを導入し、人間の身体・心理に与える影響について統合的に評価することを計画した。当該年度では、単純な赤色環境下においてストレス負荷実験を実施した。その結果、赤色環境における7種類のバイオマーカーのストレス反応、およびその回復過程において特徴的な二種類の反応パターンが観察された。一方は、ストレス反応においてコントロール条件(無色)に比較してより大きなストレス反応を示すパターンであり、これには免疫グロブリン、コルチゾール、αアミラーゼ、デハイドロアンドロステロンにおいて認められた。他方は、やはり赤色環境においてストレス反応後におけるバイオマーカーの基準レベルへの回帰(回復)が小さい物質であり、これには免疫グロブリン、デハイドロアンドロステロン、テストステロンが含まれる。当該研究は、第一義的には、色が及ぼす生理効果についてバイオマーカーにより物質的に評価する可能性を示し、したがって、当初の研究計画の目論見は部分的に達成されたと言える。しかしながらその一方で、赤色環境下において観察されたバイオマーカーの反応の分化は、例えば生理機序が全く異なる物質が同じ反応を示すなど、想定外のものであり本研究のみでは妥当な解釈を得ることは困難である。この点、次年度以降に課題を残した。
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