日本人の笑顔の形成能力の実態を、眼裂の針状度、表情矩形アスペクト比(両外眼角、両口角を補間する仮想矩形の縦横比)、下唇の傾斜度の3つの顔の幾何学的特徴量を測定し明らかにした。100名の大学生男女に笑顔写真の刺激画像に対する微笑み返しを課題として与えた結果、アスペクト比、下唇の傾斜度と比較して眼裂の針状度が最も低いという知見を得た。眼の部分の笑顔形成を苦手とする人が多い傾向がわかった。男女の比較をした結果、眼裂の針状度と、下唇の傾斜度以外は、笑顔ができた男性の割合を女性が上回った。女性の方が認識度の高い笑顔を表出しやすい傾向が明らかとなった。また、YG性格検査を行い5因子の性格特性別に、認識度の高い笑顔を表出できた被写体の割合を算出した。C(平穏的・温順寡黙な人)、次にA(平均型・中庸の人)の認識度が高く、D(管理者型・安定積極的な人)、E(異色型・寡黙の人)、B(独善的・積極的な人)という順序となり、性格特性と笑顔形成能力の関係性が示された。さらに、6名の男子大学生を対象にして内田クレペリンをストレス負荷として10分間課し、負荷の前後で笑顔形成時の表情筋活動を筋電図測定した。被験筋は顔の右側の眼輪筋、大頬骨筋、笑筋、下唇下制筋とし、測定には直径5mmの小型皿型表面電極を使用した。その結果、眼輪筋で平均21%、下唇下制筋で平均27%の筋活動量の低下を確認した。大頬骨筋、笑筋の活動量に変化はみられなかった。このように笑顔形成能力の多様性とストレスに伴う変化様態がわかった。今後、ストレスに対する表情筋活動と他のストレスマーカーとの関係性を検討することが課題である。
|