研究概要 |
本年度は局所的な学習則を持つモデルを構築し,その挙動を検討した. 神経細胞モデルとしては,発火・非発火の二つの状態のみを持ち,発火率が入力にシグモイド関数をかけたもので与えられるものを使った.このような単純なモデルを利用したのは,単純なモデルならば学習則を導くのが容易だからである.この神経細胞モデルに自然界の写真(自然画像)から切り出した小さな画像の輝度の重み付け和を入力として与えた.和の重みがシナプス結合強度に当たり,重みの更新が学習に対応する.入力に対するモデル神経細胞集団の集団発火率およびモデル神経細胞の発火率の長時間平均をできるだけ小さくする学習則(出力細胞の発火をできるだけスパースにする学習則)を導いた.このような発火率をスパースにする学習則は出力の担う情報量を最大化する学習則と密接に関連することが以前から知られている. 入力として自然画像を与えて学習させると,出力細胞は画像の中の特定の位置に存在する特定の傾きの線分に応答する選択性を獲得することがわかった.これは大脳皮質一次視覚野の単純型細胞の選択性に類似している.学習モデルのパラメタに対する依存性を調べたところ,線分に対する選択性の獲得は広いパラメタ範囲で生ずることがわかった.さらに学習が終わって単純型細胞に類似した選択性を獲得したモデル神経細胞の出力を再び入力として使って,二段目のモデル神経細胞群に同一の学習則を適用すると,二段目のモデル神経細胞は特定の傾きを持ち,画像の中のある範囲内に存在する線分に対する選択性を獲得することがわかった.二段目の細胞は一段目の細胞とは違って,位置のずれた線分に対しても応答した.これは一次視覚野の複雑型細胞の選択性に類似しており,本モデルによって一次視覚野の細胞の選択性を広く説明できた.
|