研究概要 |
【背景と目的】予測市場とは将来確定するある事象の結果に基づいて配当が行われる証券を取引する市場であり,それ自体が参加者の予測を統合する機能を持ち,精度の高さから注目を集めている.一方でなぜうまくいくのか,何が精度に影響を与えるのかなどについては未解明な部分が多く,これをエージェントベースドシミュレーション(ABS)を用いて分析することを目的とした. 【問題設定と定式化】予測市場には多くの設定項目があり,研究目的に合わせ本質だけを抽出した設定を行う必要がある.市場の成熟度に注目すべく,予測対象としては2人の候補者がいる選挙,予測に用いる情報としては知人の意見と市場の意見(価格)だけ,という単純なものを用いることにした.取引の形態等を含め定式化を行うことで,事例べース推論,テクニカル分析,強化学習などの戦略を統一的に扱うことができるようになった. 【フレームワーク作り】本研究では将来的に,取引エージェントとして外部プログラムや人間を参加可能にすること,シミュレータを公開することを想定している.先物取引シミュレーションであるU-mart等を参考に,これらのための慎重なクラス設計を行った.また,並列計算機(PCクラスタ)を購入し,大きい計算量の分散を行う準備を整えた. 【戦略のモデル化とパラメータの最適化】戦略として,テクニカル分析型,ファンダメンタル分析型,状態行動テーブル型のモデルを導入した.前者2つは共進化によってパラメータを進化させ,状態行動テーブル型は強化学習によってパラメータを学習する.その結果,回を重ねるごとに市場が安定し,極端に損をするエージェントが減ると同時に高精度の予測ができるようになることが分かった.これはより"リアル"なエージェント群が形成されたことを意味し,進化・学習というアプローチによる本研究の有望さを示すものであると考える.
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