研究概要 |
カオス現象は、自然科学や工学に限らず、社会科学をも含む広範な分野の対象で現れ、今日それらの研究にけデジタル計算機を使ったシミュレーションが欠かせないものとなっている。シミュレーションの正確さが、そのような研究の正当性を左右する重要な要素となるが、その一方で、計算機を使って、誤差のない、真のカオス軌道を生成するのが非常に困難であることもよく知られている。本研究課題では、計算機で正確に実行できる整数演算のみを用いて、区分的線形写像を含む区分的1次分数写像の真軌道生成法を確立し、さらに、それをカオス現象のシミュレーション解析に応用することを目的としている。これまでに行った予備的研究により、1次元の区分的1次分数写像に関しては、真軌道を生成することに成功している。区分的線形写像は区分的1次分数写像でもあるため、この方法によって、1次元の区分的線形写像の真軌道生成も可能である。今年度(平成21年度)は、3次無理数を使った真軌道生成および特定の数表現を使つた真軌道生成の2方向から、2次元区分的線形写像の真軌道生成法の構築を行った。 1. 3次無理数を使った真軌道生成では、平面上の点が含まれる区間の判定を正確に行う必要がある。今年度の研究により、グレブナー基底を用いる区間判定法が有効であることが明らかになった。実際に、確立した2次元区分的線形写像の真軌道生成法を、パイこね変換,アーノルドの猫写像,Double dragon写像に適用し、その有効性を確認した。 2. 3次無理数以外の特定の数表現を用いた場合にも、2次元区分的線形写像(例えば、パイこね変換)の真軌道生成に成功した。 以上のように、本研究課題で構築された真軌道生成法(1または2)を用いることによって、2次元までの区分的線形写像に関しては、基本的には真軌道の生成が可能となった。
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