研究概要 |
H22年度においては,可換クォータニオンに基づく連想記憶システムの構築を行うとともに,連想記憶の一つであるシナジェティックコンピュータ(以下SC)について,その複素数値化ならびにクォータニオンへの拡張を行った. まず,前者についてであるが,これまでに本研究申請者が研究を展開してきた相互結合型QNNによる連想記憶システムにおける問題点の一つとして,クォータニオンにおける積演算の非可換性,すなわちクォータニオン同士の積の順序により得られる結果が異なる,ということが挙げられる.これに対して可換なクォータニオン体系が研究されている.QNNを画像処理応用に供するためには,クォータニオンの演算を容易化することが重要であると考えられる.可換クォータニオンを基にした連想記憶(以下CQNN)として,本研究申請者は二種類のCQNNを提案した.一つは各素子の状態が2つの位相情報と1つの振幅情報により表現されるものであり,もう一つは可換クォータニオンの持つ性質である2つの複素数の重ね合わせで素子状態を表現する.これらのネットワークにおける安定条件をそれぞれ導出した.後者のSCによる連想記憶システムにおいては,システムの各要素の挙動が隷属原理により支配されており,それらによるマクロな挙動は秩序パラメータと呼ばれる実変数により表される.これらのシステムでは全てのパラメータは実数で表現されているが,位相・振幅情報や色彩情報を自然に表現することが困難である.そこで,まずSCの各パラメータを複素数で表現するとともにパラメータ更新則を全て定義し直すことにより,SCを複素数値化した.この複素SCにおけるノイズ耐性や安定性について,実画像を記銘,想起させる実験を行うことにより評価し,その結果,複素SCは実SCよりも高い想起性能を持つことを明らかにした.現在,同様にして構成したクォータニオンに基づくSCについて,カラー画像を記銘することによりその性能評価を行っている段階である.
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