本研究は、自治体財政が逼迫するなか、公共サービスの効率性ならびに行政評価やその説明責任が求められているという背景の元で、公立図書館のもたらす経済価値を定量的に測定するための手法を構築するとともに、その適用可能性と限界を明らかにしようとするものである。具体的には、主に経済学分野で開発・発展してきた、非市場財に対する複数の価値測定手法(CVM、コンジョイント分析、旅行費用法、代替法等)を公立図書館、および、そのサービスの評価に適用し、政策評価手法としての有効性について検証することを目的としている。 平成21年度は、館種を問わず、図書館(サービス)を対象とした費用便益分析、費用対効果分析、および、便益測定手法を扱った既往文献の網羅的なレビューを行い、近年の研究動向を把握することにつとめた。加えて、環境経済学や交通経済学分野での実証事例をレビューして、公立図書館への応用可能な手法について検討した。 また、利用者がどのような図書館を選好するのかを調査する際の基礎資料として、既存の定期的な公立図書館統計では調査されていない、「図書館の蔵書構成」ならびに「図書館の利用規則」について、全国の公立図書館から設置母体別に500館を無作為抽出し、アンケート調査を実施した。ここでは、その実態を把握するとともに、蔵書構成や利用規則が図書館の利用(来館者数や貸出冊数)にどのような影響をもたらすのかを明らかにするとともに、その成果について学会発表を行った。 さらに、コンジョイント分析を用いて、「図書館へのアクセス」「蔵書規模」「開館時間」「貸出条件(冊数)」「一世帯当たりの年間税負担額」の五つの属性を設定して、市民の図書館に対する選好意識とその限界支払い意思額を推計した。
|