研究概要 |
本年度は当初の計画通り,これまでに構築した光反射モデルに基づいて,より複雑な表面構造を持つ物体表面の光反射モデルを構築した.たとえば絹織物等の微細な表面構造を持つ物体の光反射特性や分光反射率を推定する手法を開発した.このことから従来では推定が難しかった絹織物や人の肌などを対象にデジタルアーカイブが可能となった.重要な有形文化財の多くは複雑な表面構造をもつものが多く,これまでこういった対象の光沢や陰影の様子を精密に記録再現ができなかったが,本研究によりこういった対象のデジタルアーカイブができる可能性を示すことができた. 1.複雑な表面構造を持つ物体表面の計測系構築:複雑な表面構造を持つ物体表面の観測を簡便化するために高解像度のカメラとマクロレンズを用いて,表面構造を拡大して画像計測できる計測系を構築した.この計測系では様々な照明方向を設定しながら反射光分布を計測するが,表面構造を単純な要素に分解することでモデル推定を簡便化することができた.2.分光反射率の推定アルゴリズムの開発:複雑な表面構造を持つ物体の場合には,反射光に常時光沢が含まれている可能性があるため画像計測のみならず,分光光度計等の計測器を用いても正確に分光反射率が計測できない場合がある.こういった対象から画像計測とヒストグラム解析により正確に分光反射率が計測できる手法を開発した.3.レンダリング・ディスプレイシステムの開発:Graphics Processing Unit(GPU)上に構築した光反射モデルを実装して,デジタルアーカイブした美術品をリアルタイムにレンダリングする手法を開発した.このときレンダリングシステムに3次元ディスプレイ装置を採用して立体的な美術品の映像再現を試みた.このとき,同時に分光ベースのリアルタイムレイトレーシング法を開発することで,相互反射を含む物体のCG再現が可能となった.
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