本年度は、インターネット上のコミュニティ利用における「名乗り」と「ID」の構造について理論研究に基づいた整理を行うとともに、探索的な調査および本調査の準備を行った。 理論研究においては、IDと行為のLinkabilityの整理および広義の仮名(pseudonym)種類、開示対象の制御やレイヤ構造を整理し、設計可能性を示した。この整理およびモデル化により、設計者の意図と、利用者の理解にギャップがあるのか、あるとすれば何が問題になるのかという、ソーシャルリスクの考察が次の段階に見えてきた。その過程で、不正アクセスによらないなりすましリスクのモデルや、社会制度としてのIDと名乗りの構造について考察した。これらの成果は、学会誌および論文誌において論文発表するほか、韓国で開催された国際シンポジウムの招待講演によって発表している。また、探索的に二つの調査を実施した。第一に、米国および日本の大学生・大学院生を対象に、ソーシャルメディアの利用および公開している情報についてアンケート調査を実施した。その結果、米国の大学生のプロフィール情報の開示度合いは日本の学生と比較してきわめて高いという結果を得た。第二に、Twitterにおけるなりすましおよび相互リンクによる真正性確保について、サンプルデータを集め収集した結果、構造的に真正性が確保できたのは利用者の一部という結果を得た。 理論研究および探索的調査を踏まえ、企業の協力を得て大型掲示板のログ分析およびアンケート調査の機会を得た。研究協力者とともに年度内に調査設計を完了し、次年度初頭に調査を実施予定である。
|