2010年度は、企業のご協力による大型掲示板の利用者に対するアンケート調査の実施と、文献調査による「名乗り」の構造の整理、またユーザに対する啓蒙・教育の方法について検討した。 まず、大型掲示板の利用者に対するアンケート調査からは、ネット上のコミュニティに参加する利用者の名乗りに関して、当該コミュニティでは頻繁な利用者ほど名前(仮名)を意図的に使い分けていることが浮かび上がり、またサイトの設計によっては利用者の名乗りの自由度を担保しつつ、なりすましや自作自演への対処が可能ということも示唆された。次に、こうしたコミュニティサイトおよびソーシャルメディアにおける名乗りの構造について文献の調査を元に概念整理を行った。利用者・サービス提供者・本人確認という層に分けた上で、どの範囲の情報を、誰に対して開示するかという組み合わせによって、匿名性の高い仮名・低い仮名が設計可能であることが見えてきた。 匿名性や実名、仮名といった名乗りは是非論や二元論で語られやすく、構造的な理解が進んでいるとは言い難い。そこで、研究期間の後半では、ユーザに対する教育手法として他の研究プロジェクトにおいて取り組んできたマンガを用いたケース教育との組み合わせや、セキュリティ政策との関わりについても取り組んだ。ユーザが何を理解しておらず、何を理解することによって便益とプライバシーの両立ができるかという観点で教材の作成と実施、評価を試みた。
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