研究概要 |
昨年度は,自らが意図的に見ようとする状態を作り出す基本的な仕組みが想起のメカニズムであることを仮説として,反射的な注視のメカニズムとの違いを検証するための人とロボットのインタラクション実験を予備的に実施した.本年度はその予備実験の結果を分析し,本実験へとつなげるための仮説の精緻化を試みた。また,これと同時に,本年度は他者の心的状態を理解・共有するようになる発達過程の解明に向けた数理モデルの構築を課題とした.これらの取り組みは哲学系および複雑系研究者が集まった研究会「複雑系科学と応用哲学」において報告し,その成果は科学哲学誌(Vol44(2),p.29-45)にまとめることができた.実験方法の技術的な問題に関しては,民間企業であるトビー社主催のシンポジウムにおいて招待講演の依頼を受けることができたので,その機会に視線計測装置とロボットのリアルタイム制御システムの構築方法とその注意点をまとめることができた. 人-ロボット間のインタラクション実験の予備的な実施とその結果の分析から,ロボットの反射的な注視行動は,コミュニケーションの初期段階や突発的なイベントに対して人らしさを感じさせる機能を持ち,意図的な注視行動は,コミュニケーションにおいて形成された状況や文脈に対して人らしさを感じさせる機能を持つのではないかということが分かってきた.また,意図的な心的状態の持つ機能をより明確に取り出すための1つの方策として,注視対象の選別に情動システムを組み込む案を提示することができた.これは,情動システムが反射的な行動生成のシステムに結びつく場合と,意図的な行動生成のシステムに結びつく場合で,より明確な人らしさについての違いを浮き彫りにできるのではないかという考えに基づくものである.
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