研究概要 |
Sasaoka et al.(2010)は,トラックボールやターンテーブルを被験者が手を用いて回転させることでディスプレイに呈示された物体を回転させることのできる装置を用いた実験を行い,被験者が物体の景観を能動的に観察することによって,後の物体認識パフォーマンスが促進することを示した.しかも,この促進効果は効果器から見て右ネジの回転方向に対して特異的であった.この結果は,手の回しやすさという生体力学的拘束が物体認識に影響を与えていることを示唆している.そこで,物体認識における生体力学的拘束について検討するため,刺激をステレオ視によって立体的に呈示するとともに,ディスプレイの側面に直接取り付け可能な回転デバイスを用いた実験を行った.実験では,被験者がデバイスを手で回転することにより物体を回転し,景観の変化の能動的観察を行った後,物体認識パフォーマンスに促進が見られるかどうか調べた.その結果,能動的観察を行った被験者群において右ネジの回転方向に対して特異的な認識パフォーマンスの促進が起こり,能動的観察のリプレイを受動的に観察した被験者群ではそのような促進は見られなかった.さらに,能動的観察を行った被験者群において,ほとんどの被験者が手を回転しやすいと回答した方向と認識パフォーマンスが促進する回転方向が一致していた.この結果は,手の回しやすさという手の生体力学的な制約が物体認識過程に影響を与えることを示している.本研究で得られた知見は,物体認知において身体化による認知が行われていることを示す有力な証拠と言える.
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