研究概要 |
本研究では,美的価値表象に関する報酬系の脳内活動部位を特定するとともに,それらの場所が美的価値のどのような側面と関連しているのかを明らかにすることが目的だった。本研究では大きく2つのfMRIによる実験的検討を行つた。1つは,Kawabata & Zeki(2004;2008)で我々が用いた方法と同様に絵画刺激を提示して,そこに感じる美の評価を3段階で行い,脳活動から評定を推定するというデコーディングに基づくものであり,'もう1つは,受動観察もしくは別の評定課題中の脳活動と,事後に取った絵画の美的評価の評定とを後付け的に関連度を検討していくというものであった。 デコーディング研究では,眼窩前頭皮質の活動を中心とした美的活動部位の信号をもとにした評定の推定では70%以上の確度で反応が推定できることが分かり,このことは差分を用いる通常の脳活動検出の結果をサポートするものとなった。また,受動的観察法を用いた実験では,美的評価をすることを課題中に教示されなくても,脳の活動の対応関係を明らかにすれば,観察対象である顔の美しさの事後評定に対応して,美しいという評価と眼窩前頭皮質中央部とが,醜いという評価と眼窩前頭皮質側部とが活動として関連するということが明らかになった。また,顔刺激を用いた相対的価値評価と絶対的価値評価とを区別するfMRI研究では,相対的評価と絶対的評価とで共通した脳部位と異なる脳部位とが得られ,特に側座核といった大脳基底核に位置する部位と眼窩前頭皮質という前頭葉に位置する部位とで異なる反応が得られた。 このように美に関連する報酬系といってもそこに含まれる脳部位の機能的な役割は異なっており,相対的で速い反応を示す側座核,絶対的評価や価値の表象に関連し自動的な反応が可能である眼窩前頭皮質中央部,負の美的評価と関連し,飽きやネガティブな評価と関連づけがなされている眼窩前頭皮質側部などの機能分離が可能であることの示唆が,本研究を通して得られた。
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