研究概要 |
本研究では,2者間のインタラクションにおいて,I.インタラクション状態を定義する状態空間の推定,II.推定された状態空間において行動を決定する状態行動価値関数の推定,III.状態行動価値関数の決定に関与する内的状態の推定,の3つの推定機能が関与すると仮定し,行動実験を用いてこの仮定の妥当性・正当性について評価するとともに,これらの機能が実現可能な処理過程モデルの構築を目指した. 本年度は,1年目の成果に基づき,「インタラクションがおこなわれる状況が同一の状態空間で表現されるとき,異なる状態行動価値関数が用意」され,その上で「行動を決定する状態行動価値関数が別の内的状態」に依存して選択され,インタラクション参与者が相互にその「内的状態を推定する」過程を行動的に追うとともに,これら一連の過程のモデル的表現の端緒を掴むことを目標に研究を進めた. まず,行動決定のための状態空間と状態行動価値関数が複数設けられる「騙し場面」を行動実験場面として用意した.この場面では状態空間上の任意の位置には複数の状態行動価値関数が配置でき,状態行動価値関数の選択は予測される報酬量だけではなく,推定された他者の内的状態によっても修飾される.インタラクション相手の一方が「騙す者」になりもう一方が騙しの意図を明瞭に検知できない状況では,相手の内的状態を正しく推定することで,自身の意図を隠し相手の意図を誘導できる行動を事態の時系列的変化にしたがって選択することが示された.この行動分析結果を精査することにより,今後この行動選択過程のモデル化を目指す. もう1つの行動実験として用意した協同問題解決場面は,両者が相互に相手の意図を推定しかつ誘導を試みる場面である.昨年度に引き続き,相手の意図を推定する過程および誘導を試みる過程の記録法とその詳細な過程の抽出方法を検討したが,記録方法も含めた実験手法のさらなる検討が必要性になった.
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