本研究では、言語を司る神経基盤を解明するために、機能的ヒト脳モデルとして音声学習能をもつ鳴禽類を用い、解剖学的ヒト脳モデルとして小型霊長類コモンマーモセットを用いて研究を行った。ジュウシマツの脳の歌制御神経核において、歌学習臨界期の終了を境にシナプス可塑性の分子基盤の一つであるCaMK2Aの発現量が低下することから、CaMK2Aが歌学習臨界期の分子的実体の一つであると仮定して以下の実験を行った。1)CaMキナーゼ阻害剤による臨界期操作:臨界期中の幼若個体の脳にCaMキナーゼ阻害剤を埋め込み、歌学習への影響を検討した。歌学習が終了する120日齢の歌を録音し、チューターの歌との類似性の解析と脳内の阻害剤埋め込み部位の確認を行っている。2)隔離飼育による臨界期操作:生後すぐに他個体から隔離して飼育を行うと臨界期が延長することが知られている。そこでジュウシマツでも隔離飼育を行ったところ、通常飼育下では臨界期が終了している80日齢においてもチューターの歌を習得できることが確認できた。そこで臨界期特異的な発現動態を示す遺伝子を同定するため、cDNAマイクロアレイを用いて、通常飼育個体と隔離飼育個体の各発達段階の脳の遺伝子発現プロファイルを比較した。その結果、通常飼育と隔離飼育で異なる発現パターンを示す遺伝子を複数同定することができた。3)コモンマーモセット脳の遺伝子発現解析:ジュウシマツの歌制御神経核で発現している遺伝子がコモンマーモセットの脳でどのような発現パターンを示すかについてin situハイブリダイゼーション法を用いて解析した。その結果、ジュウシマツの歌神経核で相補的な発現パターンを示す複数の可塑性関連分子がマーモセットの大脳においても相補的な発現パターンを示していた。現在、各発達段階のマーモセット脳における遺伝子発現解析を行っている。
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