研究概要 |
本研究の目的は、脳病変例を対象とした神経心理学的手法により、空間認識における身体性の関与について探ることである。身体図式は、ヒトにおける様々な高次脳機能との密接な関わりが指摘されている。特に近年では基礎分野だけでなく、ロボット工学や身体障害者を対象としたリハビリテーションなどの応用分野においても身体性が重視されており、身体図式のメカニズムの解明は重要な課題となっている。本研究では、変性疾患やパーキンソン病などの脳病変例を対象として心理学実験を施行し、身体のオンライン情報が空間認識に与える影響について検討する。 今年度は、両側頭頂葉病変を主体とする皮質基底核変性例に認められた身体図式障害について報告した(鶴谷,2009)。この症例は身体に関する意味的・視覚的な情報は保たれていたが、自己の身体部位の位置を空間定位することが困難であった。一方で他者の身体においては、体部位の位置を正しく定位することができた。本例の自己身体部位定位について検討した結果、深部感覚情報に基づく自己身体へのリーチング動作において空間情報処理の問題があると考えられた。この検討に基づき、身体図式において現在の身体の状態をオンラインで処理する機能の重要性が示唆された。 また、心理学実験を用いたグループスタディの対象として、パーキンソン病に対する検討を進めている。対象とする患者群には本年度に基礎的な認知機能の検索を実施しており、神経心理学的な査定が完了している。患者の多くは体の傾きや手の震え、歩行困難といった姿勢・運動の障害を有しているが、知的機能は保たれていることが確認できた。これらの症例に対して空間判断を要する心理学実験を施行し、姿勢保持や運動障害などの動的な身体情報処理の問題が空間認識にどのような影響を及ぼすのかを今後検討する。この成果は、パーキンソン病のリハビリテーションやQOLの向上に貢献できると考える。
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