本研究の目的は、脳病変例を対象とした神経心理学的手法を用いて、身体図式および空間認識に関する検討を行うことである。身体図式は、ヒトにおける様々な高次脳機能と密接な関わりが指摘されている。特に近年では、基礎分野だけでなく、ロボット工学や身体障害者を対象としたリハビリテーションなどの応用分野においても身体性が重視されており、身体図式のメカニズムの解明は重要な課題である。今年度は生にパーキンソン病患者群を対象とし認知機能の基礎評価を行った。さらに身体において社会的に重要な位置づけをされる顔の情報から他者の心理推測を行う課題を施行し、パーキンソン病患者が健常者と比べて視線から相手の情動を読み取ることが困難となることを示した。また同様の課題を両側上側頭溝病変患者にも施行し、成績低下を認めた。一方、パーキンソン病患者では手足の震えや動きにくさなどの症状が左右差を伴って生じることが知られている。現在、これらの運動症状の左右差が空間性注意に及ぼす影響を調べるために反応時間を測定する課題を行っている。本結果の分析により、運動症状により阻害されるオンラインの身体図式情報が空間認識にどのように関与するか、検討できるものと思われる。
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