研究概要 |
本研究では,他者との関わりの中で生活する際に重要な認知機能である「顔認知」の観点から,乳児の脳の認知的な発達領域を解明することを目的とした。平成21年度の目的は,乳児の養育者,特に母親顔に対する認識について脳内活動計測実験を行うことであった。そのために,乳児が母親と母親以外の見知らぬ女性の顔を見ている際の脳活動は異なるのか,すなわち母親顔に対する特別な神経メカニズムが存在するのかについて,NIRSを用いて検討した。これまでの乳児の母親顔に対する脳活動は,ERPsを用いた研究のみである(de Haan & Nelson, 1997)。ERPsでは,脳の電位活動の変化を捉えることは可能であるが,その電位の活動源については詳細に調べることは難しく,NIRSを用いることでさらに乳児の脳の活動部位の特定が可能となる。NIRSは乳児の脳活動計測装置として近年多く活用されており,申請者らの研究から,乳児でも成人と同じく顔を見ると脳の右側頭部(STS領域)の活動が見られることが明らかになった(Otsuka et al, 2007 ; Nakato et al, 2009)。この知見を元に,母親顔と未知の女性の顔を見ている際の左右両側頭部での脳血流量の変化をNIRSによって計測した。 生後7-8ヶ月児15名を対象として,母親顔と未知顔を提示した結果,母親顔に対しては,左右両側頭部での活動が高く,一方で,未知顔では右側頭部での活動が高くなった。成人のfMRI研究(Gobbini et al, 2004)では,既知顔に対して,左右両側頭部の活動が増加することから,成人の研究と同じく,乳児でも既知顔(母親顔)の処理には,左右両側頭部位の活動が関与することが示唆された。この実験により,乳児における母親顔の処理に関わる脳活動領域が判明し,これまで行動実験で示されていた乳児の母親顔への特殊性を,脳活動から示すことが可能となった
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