研究概要 |
本研究は,Nielsen & Jensen (2000)のTIMモデルに焦点を当て,そのモデルパラメータに対する最尤推定量の漸近的性質について考察するものである.非定常マルコフ空間点過程モデルに対する統計的推測理論の構築は,世界的に見ても,現状では不十分である.本研究では,上述の課題に取り組み,どのような条件のもとで推定量が一致性や漸近正規性を持つのか,そしてその条件は実用的にどのような言葉で表現されるのかという点を追求し,空間点過程の分野における理論的な貢献をすることが目的である. 平成22年度は,モデルパラメータに対する最尤推定量の漸近正規性について調査をおこなった.本研究では,空間統計学における漸近理論の枠組みとして,過去の定常プロセスに関する漸近理論に鑑みて,観測領域を拡大させるという設定を採用する,まず,対数尤度を真のパラメータの周りで展開することで,最尤推定量をある2つの統計量の比として表現した.さらに若干の式変形を施して,2変数の同時分布を求める問題に帰着させることにした.ここで,キーになるのが定常な空間モデルにおける中心極限定理の適用である.本研究では非定常プロセスを扱っており,この方針に従うと,問題を一旦定常モデルの枠組みに戻した上で中心極限定理を適用する必要がある.その適用可能性について検討したが,残念ながら明快な解答を与えるまでには至っていない.この点について今後も引き続き検討し,非定常モデルにどのような条件を課せば良いか,そして,その条件は現実的にはどのような意味合いを持つのか考察する必要がある.考察に区切りがついた時点で論文としてまとめ,学術雑誌に投稿する予定である.
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