研究概要 |
タンパク質の相互作用を理解する上で,アミノ酸残基単位での相互作用の理解は有用である.そこで平成23年度は条件付き確率場の一種で画像処理の分野で用いられている識別(discriminative)確率場をアミノ酸残基間の相互作用モデルとして導入した.画像に対する確率場にはしばしば二次元格子が用いられ,格子点には画素が対応する.一方残基間相互作用モデルでは,格子点をアミノ酸配列中の各残基のペアに対応させ,画素値の代わりにマルチプルアライメントから得られる残基ペアの相互情報量を利用した.これは相互作用するアミノ酸残基どうしは,相互作用を維持するために片方のアミノ酸残基が変異を受けて置換されればもう片方もこれに伴って変化するという考えに基づく.識別確率場の特徴として周囲の格子点の情報も条件付き確率に反映される点がある.いくつかのタンパク質のペアについて計算機実験を行った結果,識別確率場を用いた方が周囲の格子点の情報を伴わないマルコフ確率場を用いるよりも残基間相互作用の予測精度が高かった.しかしながらまだ実用には耐えられないため改良が必要である. さらに,タンパク質相互作用ネットワークから予測されたタンパク質複合体の検証手法に関する研究を行った.先行研究ではタンパク質ドメインの相互作用に着目し構造的な制約から,ある一つのドメインは高々一つのドメインと相互作用するという仮定のもと複合体中でのタンパク質間の相互作用数を最大化した.しかしこれは複合体を大きく二分する可能性があるので,できるだけ一つの大きくまとまった複合体を取ってくるように整数計画問題を改良した.またこれとグラフ理論での極大成分などとの組合せ手法を提案した.MCLとMCODEに対する計算機実験により,先行研究の手法よりも精度,再現率の両方で上回った.
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