本研究の目的である遺伝子制御ネットワークの定量的なモデル化のため、本年度はまず、大腸菌を用いた実験室進化の過程でどのような突然変異が選択されていったかをゲノム全体で検出する解析、そしてその結果大腸菌の約4500種類の遺伝子の発現量のプロファイルがどのように変化したかを定量的に比較する解析を行った。 本年度の研究では、人工進化実験として大腸菌にとって生育に不利な環境であるエタノールを添加した培地で継続的に培養を続ける実験を行った。この実験では全部で6系列の独立な培養を行ったところ、約100日間、およそ1000世代を経ることでその6系列の全てにおいてエタノールを加えられた環境への適応が見られた。その6系列のエタノール適応株A~Fにおいてゲノムの塩基配列に変異の起きた箇所をDNAマイクロアレイを用いて解析した結果、最も増殖速度の増殖が大きかったA株では126ヶ所の変異が検出されたのに対し、他の5株ではそれぞれ数個ずつの変異しか検出されなかった。しかし、その数個の中には、複数の株で共通に変異が検出されたものもあり、特に、グローバルレギュレータと呼ばれる非常に多数の遺伝子の発現に影響を与える遺伝子に関わるものも検出されている。 一方、これらのエタノール適応株それぞれを用い、エタノールを添加した培地及び添加しない培地の両方の環境における遺伝子発現解析を行い、適応前後、エタノール添加の有無での遺伝子発現プロファイルの比較を行った。既知の発現制御因子の情報を元に発現制御の相互作用をモデル化して調べたところ、適応前後での遺伝子発現の変化と有意に相関している制御因子と見られるものがいくつか見つかった。今後、これら適応に影響を及ぼした発現制御因子と、変異の検出された遺伝子がどのように相互作用しているかをシミュレーションを通して解析していく予定である。
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