研究概要 |
交互脈は脈の振幅または間隔が大小を交互に繰り返す脈で,死の予兆であることが知られている.本研究では,生物実験結果を基に交互脈の発生に関する心臓の数理ネットワークモデルの一部を構築した.各種細胞のモデルは既存のものを使用し,グルタミン酸による興奮性シナプスの時定数(立上がり時間と立下り時間)を実験結果の電流波形より計測し,常微分方程式を用いた数理モデルを作った.そのモデル方程式(非線形)に対して,我々の研究グループで開発した分岐解析アルゴリズムを用いて,方程式の解の性質が変化(分岐)するパラメータ領域を調査した. 交互脈は分岐の観点から見ると解の周期が倍になる周期倍分岐に対応している.そこで,構築した数理モデルに対して分岐解析アルゴリズムを適用して周期倍分岐が起こるパラメータ値を探索した.パラメータとしては,ナトリウムイオンとカルシウムイオンのコンダクタンス,細胞外カリウムイオン,ナトリウムイオン,塩化物イオン,カルシウムイオン濃度を変化させた.これらの中で細胞外カリウムイオン濃度を変化させた場合に交互脈の発生が見られた.細胞外カリウムイオン濃度が変化すると,時間依存カリウムイオン電流のコンダクタンスと平衡電位,時間非依存カリウムイオン電流のコンダクタンスと平衡電位に影響を与える.これらの中で時間非依存カリウム電流の平衡電位が特に交互脈の発生に関与することを明らかにした.正常な平衡電位の値から上昇するに従い,交互脈が発生し細胞の発火周波数が徐々に上がっていき,心筋細胞が閾値まで到達しなくなり,心臓が動かなくなるという心停止のプロセスを,モデル方程式の時間非依存カリウム電流の平衡電位値を変化させることで再現することができた.これらの結果により,交互脈の発生メカニズムを明らかにし,交互脈を抑制するためには細胞外カリウム濃度が重要なファクターであることがわかった.
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