本研究では原子核を観測する中性子構造解析と電子を観測するX線構造解析を相補的に用いることで、タンパク質水和水の構造決定において恣意性を排した自動同定法の確立を目的としている。そこで21年度は、豚膵臓エラスターゼおよびHIV-1プロテアーゼについて同一の結晶から中性子およびX線回折データを測定し、両データを同時に用いて構造の精密化を行った。また、両データからそれぞれ得られる原子核密度分布および電子密度分布の差分となる"中性子-X線差密度分布(N-Xマップ)を計算するソフトを開発し、上述のタンパク質についてN-Xマップを計算した。その結果、水和水中の水素原子を強調して可視化されることで、恣意生を排した水和水の構造決定を可能にした。 また、本研究では上述の手法を活用した、水和水が機能解明の鍵となるタンパク質の構造解析も目的としている。本研究ではこのようなタンパク質として、生体内で氷結晶の成長を抑制することで体液の凍結を防ぐ不凍タンパク質(ナガガジ由来: nfbAFP)に注目した。nfeAFPには抗凍結活性を持つアイソフォーム(QAE型)に加えて抗凍結活性を持たないアイソフオーム(SP型)の存在が知られているが、本研究ではSP型アイソフォーム中の1残基のみに変異を加えることで、抗凍結活性が発現することを明らかにした。現在、SP型およびその活性変異体のX線構造解析およびJRR-3原子炉(JAEA)の中性子回折計BLX-3を用いた中性子構造解析を進めている。 更に本研究に関連して、J-PARCに建設され、平成22年度に中性子構造解析に用いる予定である新型中性子回折計iBLXについて、そのデータ処理ソフトの開発も進めている。
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