選択的スプライシングはヒトの全遺伝子の3分の2に見られる普遍的な機構で、高等生物の限られた数の遺伝子から多様なmRNA・タンパク質を産生するのに寄与している。しかしながら、タンパク質多様性の創出が生命活動にとってどのような役割を担うのかは未だ解明されていない。本研究では、選択的スプライシングによって莫大な数の転写因子アイソフォームを生み出すショウジョウバエのlongitudinals lacking(lola)遺伝子をモデルとして、本遺伝子に起因するアイソフォーム多様性が、脳細胞および、それによって生み出される個体レベルでの行動の性差を形成するためにどのような役割を担うのかを解明するための解析を行った。 ショウジョウバエの脳においてLolaタンパク質の個々のアイソフォームを発現抑制する実験系を確立するため、個々のアイソフォームに対して特異的なノックダウン効果をもつヘアピン型二本鎖RNA(dsRNA)合成用のcDNA配列をデザインし、酵母由来の転写因子GAL4の結合配列であるUAS配列を含む形質転換ベクター(VARIUM10ベクター)にクローニングし、これまでに15種類のUAS-lola-dsRNA形質転換ベクターを作製した。本ベクターを、attP2部位特異的組み換えサイトをもつショウジョウバエ(Bloomington Stock Number : #8622)に形質転換することによって、UAS-lola-dsRNAトランスジーンを有するショウジョウバエ系統を作製した。デザインしたヘアピン型二本鎖RNA(dsRNA)が、標的とするlolaアイソフォームに対して特異的なノックダウン効果をもつことを確認するため、幼虫期の複眼原基にGAL4発現を誘導するGMR-Gal4ドライバーを用いてdsRNAを複眼原基に強制発現させ、内在性のlola mRNAに対するノックダウン効果を定量PCR法によって確認した。本研究によって、天文学的(ヒトの場合数百億個)ともいえる脳細胞の多様性が、限られた数(ヒトの場合約2万個)の遺伝子を駆使して創出される未知の機構の一端が解明される可能性がある。
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