研究課題
一つの遺伝子が複数種類の遺伝子産物(RNAあるいはタンパク質)を産生する現象はヒトを含む高等生物に普遍的に見られ、これによって限られた数の遺伝子からそれを上回る多様な遺伝子産物が産生される。しかしながら、このような多様性の創出が生命活動にとってどのような役割を担うのかはほとんどの遺伝子に関して解明されていない。ショウジョウバエのlongitudinals lacking(lola)遺伝子は、80種類以上のmRNAから少なくとも20種類のタンパク質(転写因子)を産生する。蛹期の脳神経系から抽出したLolaタンパク質の一群をSDS-PAGEによってサイズごとに分離し、共通ドメインを認識する抗体(anti-Lola-COM抗体)を用いて免疫染色したところ、雌と雄で異なるアイソフォームが産生されることを示す結果を得た。可変領域に含まれる25個のエクソンのうち、エクソン29にコードされるペプチドを認識する抗体(anti-Lola-exon29抗体)を用いて免疫染色したところ、85kDサイズの産物が雌の脳神経系でのみ産生されていた。一方、120kDサイズの産物は雄の脳神経系で多く産生されていた。投射パターンに顕著な性差を示す介在ニューロンの一群(mALクラスター)においてこれらのアイソフォームをノックダウンしたところ、雌では投射様式が脱雌化(雌型から雄型へ性転換)し、雄に特徴的な同側樹状突起が形成された。一方、雄のmALクラスターにも影響が見られ、雌に特徴的な分岐した反対側樹状突起が形成された。雄型から雌型へ性転換したものと考えられる。雄では、Lolaは脳神経系の性決定因子(雄化因子)Fruitless(Fru)の転写共役因子として働き、協同してニューロンの投射様式を雄化することが示唆された。以上のように、Lola遺伝子から産生される多様な転写因子の働きによって、脳神経系とそれによって制御される行動様式の性差が形成されることが解明された。この発見によって、脳神経系の性を規定する新しい遺伝的なフレームワークが解明されることが期待される。
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