視覚記憶情報を想起する際に、サル下部側頭皮質内のサブ領域である36野とTE野間でどのような情報が伝達されているか調べるために、平成22年度に以下の研究を行った。 2つのフーリエ図形を図形対として記憶させる視覚長期対連合記憶課題を学習した2頭のマカクサルを用いて電気生理学的記録を行った。課題に関連した活動を示すニューロンの分布を調べたところ、課題関連活動を示すニューロンが密に集まっている部位(以下クラスター)を36野で1つ、TE野で複数同定した。 前年度と同様に、同定した36野クラスターから単一ユニット活動を記録し、同時にTE野クラスターから局所フィールド電位を記録することで、課題遂行中に36野-TE野間を伝達する記憶情報を解析した。周波数ドメインの相関解析を行ったところ、遅延期間中にβ周波数帯域でクラスター間がコヒーレントに活動していることが明らかとなった。またクラスター間の局所フィールド電位同士のグランジャーの因果性検定を行ったところ、遅延期間中に複数の周波数帯域(β、γ周波数帯域)でコヒーレントな活動が見られた。 これらの結果は、下部側頭皮質内のサブ領域間で記憶の想起情報が特定の周波数帯域で伝達されていることを示唆している。
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