神経回路の発達に伴って、どのように回路機能が成熟していくのか。これは、神経科学における基本的な問いの1つである。本研究は、運動を司る神経回路の形成が実際の運動機能とどのように結びつくのかを明らかにすることを目的としている。ショウジョウバエ幼虫のぜん動運動をモデル系とし、腹側神経節内の回路発達とぜん動運動出力との関係の解明を目指す。本年度は、運動制御に重要な役割を果たす感覚神経細胞の神経終末の発達を詳細に解析した。また、運動出力の成熟過程について定量的解析を行なった。 感覚神経細胞を可視化し、ぜん動運動発達期の感覚神経終末部の発達を詳細に解析した。その結果、胚後期の急激な運動発達(単一体節の収縮->部分的収縮伝播->全体長収縮伝播)と感覚神経終末の構造変化(直線状神経末端->微小突起伸長->U字型神経末端)との間に顕著な相関があることが明らかになった。このことから、回路の形態的な発達と運動の成熟との間に因果関係が存在することが予想される。 運動出力の成熟について、これまで孵化前の定性的な変化は報告されていたが、孵化後に関しては定性的に変化がないため詳しい解析がなされてこなかった。そこで、ぜん動運動周期を指標として定量的な解析を行なったところ、孵化直後でのぜん動運動周期が平均2.5sであったのに対し、孵化後12時間では平均1.0sであった。このことは、孵化直後にはまだ運動回路は成熟しておらず、徐々に完成していくことを示している。回路の成熟に神経活動が必要であるかを明らかにするために、孵化前後の時期に一過的に感覚神経細胞の活動を阻害し、その後の運動回路発達に与える影響を調べた。すると、孵化前に活動阻害した個体は、孵化後7時間に阻害した個体に比べてぜん動運動周期が長くなった。このことは、発達期における適切な神経活動が運動出力成熟に必要であることを示している。
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