マウス小脳登上線維-プルキンエ細胞間シナプス除去へのGABA作動性伝達の寄与に関して、本年度は主に、「どの」GABA作動性シナプスが重要であるかを検討した。プルキンエ細胞の自発性抑制性微小電流(mIPSC)の発達変化を野生型マウスおよびGAD67ヘテロマウスにおいて解析した。野生型マウスでは生後3週間の間でmIPSCの振幅がダイナミックに変化したが、ミュータントマウスでは発達による変化がほとんど見られなかった。特に、シナプス前終末から複数のシナプス小胞が同期的に放出されて生じると考えられている大振幅のmIPSC(100pA以上)が、野生型マウスでは生後2週目に頻繁に見られたが生後15日以降では稀であった。ミュータントマウスでは、生後2週目において、大振幅のmIPSCの振幅が発生するものの、振幅は野生型に比べて有意に減弱していた。大振幅のmIPSCの波形解析、介在ニューロンとプルキンエ細胞の同時記録などによって、大振幅のmIPSCはバスケット細胞-プルキンエ細胞間GABA性シナプスで発生していること、および、バスケット細胞-プルキンエ細胞間のシナプス伝達が減弱していることを明らかにした。ミュータントマウスにおいて、生後10目以降の登上線維のシナプス除去が障害されていることを考慮すると、生後2週目において、バスケット細胞からのシナプス小胞の自発的同期放出が適切に起こることがシナプス除去に関与する可能性が示唆された。これまでに、大振幅のmIPSCの発生機構は既に研究報告があったが、その生理的意義は全く不明であった。本研究によって、小脳回路発達における大振幅のmIPSCの役割が明らかになる可能性がある。第32回日本神経科学大会にて研究成果を発表した。
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