本研究では線条体におけるドーパミン量の制御の分子機構を調べるため、ドーパミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素の遺伝子の遺伝子破壊をマウスで行った。floxedTHマウスの黒質にCreを発現させるアデノ随伴ウィルスをin vivoで注入し、TH遺伝子欠損を引き起こした。昨年度の研究により、線条体においては残存するTHタンパク質量に比べてドーパミン含量がずっと多く、ドーパミン含量の恒常性維持的代償機構が働いていることが示唆された。本年度はさらにメカニズムの解析を行なった。L-DOPAをドーパミンに変換する芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)の阻害剤であるNSD-1015をマウスに投与し、In vivoでのL-DOPA合成活性を測定した。その結果、THの欠損を引き起こした側の線条体では、残存THタンパク質量あたりのL-DOPAの合成活性が亢進していることが見いだされた。従って、代償機構の一部はドーパミン合成の亢進によるものと示唆された。さらに、THのリン酸化状態を調べたが、特に有意な変化は認められなかった。また、THの必須補酵素であるビオプテリン量についても検討したが、特に有意な変化は認められなかった。従って、別の機構によるドーパミン合成の亢進が起きていると考えられた。一方、TH遺伝子の欠損後16週間目における黒質ドーパミン神経細胞の数の変化を免疫組織化学により検討したところ、TH陽性の細胞は大きく減少していたが、別のドーパミン神経細胞マーカーであるAADC陽性の細胞は特に目立った減少は認められなかった。従って、ドーパミンはドーパミン神経細胞の生存に必須でないと考えられた。
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