本研究の目的はグルタミン酸受容体(GluR)複合体の分子動態と小脳皮質シナプス機能制御との関連を明らかにすることである。そのために、AMPA型受容体(AMPAR)の構成サブユニットおよび関連分子を、小脳皮質シナプスを構成する主要な細胞である小脳顆粒細胞、プルキンエ細胞(PC)、バーグマングリア(BG)、下オリーブ核神経細胞のそれぞれで選択的にノックアウト(KO)したマウスを作製し、生理機能解析を行うことで、PCシナプスにおいてGluR活性依存的にシナプス機能を制御する因子を同定し、シナプス機能制御とAMPARサブユニット構成の機能的関連を明らかにする。 登上線維シナプスおよびBG特異的KOを可能とするため、下オリーブ核に発現するHtr5b遺伝子、BGに発現するCacng5遺伝子へのCreのノックイン(KI)マウスを作製し、これらKIマウスのCre活性は概ね予想通りの様式であることが確認された。これらのマウスから数系統の選択的KOマウスを作製し解析を行った。PC選択的GluRα2 KOマウスの解析結果は2010年日本神経科学会にてポスター発表をおこない、現在論文作成中である。小脳層構造の形成異常を示したBG選択的β-catenin KOマウスにおいては形態学的解析を進めているが、よりBG選択性の高いCreマウスを必要としたため、S100b遺伝子を標的としたCre KIマウスを作製し、現在β-catenin-floxマウスと交配中である。 多数の遺伝子改変マウス作製のために開発した技術である、ES細胞における相同組換え効率の上昇法については、知的財産として成果を社会へ還元する目的で特許出願を行った(特願2010-228524)。
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