小脳プルキンエ細胞に形成される抑制性シナプスでは、プルキンエ細胞が強く脱分極するとGABA(A)受容体を介する応答が長時間にわたり増強する。本研究の目的は、この脱分極依存性増強を長期持続させる分子メカニズムを明らかにすることである。平成21年度は、まず一過的な細胞内Ca^<2+>濃度上昇により脱分極依存性増強が誘導されるときに、重要な役割を担うタンパク質リン酸化酵素CaMKIIがどの様な時間経過で活性化するかを検討した。初代分散培養プルキンエ細胞を用いてThr286残基がリン酸化された活性型CaMKIIを免疫蛍光染色すると、少なくとも2時間以上にわたりCaMKII活性が上昇することが分かった。そのメカニズムをシステム的に解析するために、細胞内情報伝達系のシミュレーションモデルを構築し、CaMKIIの自己リン酸化およびcAMP分解酵素PDE1のCaMKIIによる負の制御が、持続的CaMKII活性化および増強の安定な発現に重要であることが示された。したがって、増強を長期にわたり持続させる機構としてCaMKIIの持続的活性化が重要である可能性が示唆された。また、CaMKIIを持続的に活性化して増強を誘導するのに必要なCa^<2+>濃度上昇の閾値を、主にPDE1が制御することがモデルと実験を組み合わせることにより明らかになった。さらに、GABA(A)受容体に直接結合してその機能的特性や細胞内輸送を調節するGABARAPが、脱分極依存性増強にどのような役割を担うかについても検討し、GABARAP同士が重合すると示唆されているアミノ末端領域を欠失させると、増強誘導が障害されることが分かった。以上の結果から、CaMKIIの持続的活性化とGABA(A)受容体結合タンパク質の状態変化が、増強の安定な発現維持に協調的に寄与すると考えられた。
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