二次聴覚神経が形成する神経回路構造を単一細胞レベルで精密に解明する目的で、二次聴覚神経回路の構成成分である神経細胞AMMC-B1の解析を行った。まずはこの二次神経線維を構成する神経細胞の数を計測し、片半球に10個の細胞体から構成されることを見いだした。また、AMMC-B1神経を選択的に標識するショウジョウバエGAL4系統を用いて、単一細胞をランダムに標識できる熱ショック・フリップアウト法を行い、単一のAMMC-B1神経の形態を同定することに成功した。その結果、AMMC-B1神経は脳の同側では一次聴覚野であるAMMCと二次聴覚野であるIVLPに投射し、交連線維を経由して対側のIVLPに投射することが示された。次にAMMC-B1の神経出力部位を同定する目的で、二次聴覚神経に二種類のマーカータンパク質DsRed、n-syb::GFPを共発現させ、各神経細胞の全体構造をDsRedで、出力シナプスの位置をn-syb::GFPで可視化したところ、出力部位はAMMCとIVLPの両方に局在した。さらに樹状突起部位をDsRedとDscam::GFPの共発現により可視化した結果、樹状突起部位はAMMCのみに確認された。また、各種の神経伝達物質やその合成酵素に対する抗体染色を行い、AMMC-B1は興奮性伝達物質であるアセチルコリンを合成していることを示した。以上の結果から、AMMC-B1神経が形成する神経回路は、情報を一次聴覚野から二次聴覚野に伝達するfeed-forwardの経路と、一次聴覚野へ戻すfeed-backの経路、という少なくとも2種類の興奮性線維により構成されていることが示された。以上の研究成果により、二次聴覚神経AMMC-B1が形成する神経回路の精密地図を初めて作成した。
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