研究概要 |
本研究課題では、小規模な脳を持ち,かつ音を用いた個体間コミュニケーションを行うショウジョウバエを実験モデルとして有用な音情報を抽出して意味のある神経信号に変換する脳内過程の解明を目的とした研究を進めた。本年度はさらなる高次聴覚経路を標識するショウジョウバエ系統のスクリーニングを引き続いて行い、全3,939種類のGAL4系統のスクリーニングを終えた。これにより、二次聴覚神経を標識する候補系統を11種類同定した。続いて、これら全ての系統を用いて単一神経の投射様式を解析した。分子遺伝学的手法を用いて、個々の神経細胞の構造をマーカータンパク質により可視化し、共焦点顕微鏡を用いて取得した三次元画像を基にした三次元再構成を行った。これにより、それぞれの神経の細胞体の位置、投射経路,並びに投射先を決定した。この情報を基に,ショウジョウバエの脳における神経回路地図を作製した。また,個々の神経経路におけるシナプス出力部位、ならびに樹状突起部位を可視化した。これにより、情報が伝達される向きを推定した。以上の解析により、ショウジョウバエの脳における二次聴覚神経回路の全体構造を解明することができた。この成果の意義は、一部の投射経路しか分かっていなかったショウジョウバエの二次聴覚神経回路について,その全貌を明らかにした点である。本研究の成果は、今後ショウジョウバエをモデルとした聴覚情報処理研究を進める上での必要不可欠な知見を提供した、重要な成果であると言える。
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