研究概要 |
私たちは、脳傷害時に生体内で誘導される自己神経幹細胞の存在に着日し、その単離を試みてきた。その結果、脳梗塞後の成体マウスの大脳皮質(脳梗塞巣)より、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの三系統に分化する能力を有する内因性神経幹細胞[脳傷害(虚血)誘導性神経幹細胞;injury/ischemia-induced neural stem cell (iNSC)]を分離、培養することに成功し、現在までにその特性について明らかにしてきた(Eur J Neurosci,2009)。 さらに、近年、幹細胞の生着、増殖にはniche(ニッチ)の存在が重要であることが報告されており、血管内皮細胞[endothelial cell (EC)]が神経幹細胞のニッチとして、その生着、増殖にとって重要な役割をはたしていることが明らかとなりつつある。 本研究では、血管ニッチの有無におけるiNSCの移植効果に関する検討を行ってきたが、.これまでに、iNSC単独投与群(iNSC群)と比較し、iNSCの単独移植に加え、ECも同時に移植(共移植)した群(iNSC/EC群)において、移植神経幹細胞の生着、増殖、神経分化の促進、さらに、神経機能回復の亢進が認められることを報告してきた(Stem Cells. 2009)。さらに、私たちは、これまでの報告に加え、このiNSCが、脳梗塞病態下において、虚血及びその周囲組織に存在する血管内皮細胞に接するように存在しており、血管ニッチの存在が、内在性iNSCの増殖、神経分化を促進することを証明した(Stem Cells, 2010)。 以上の結果より、血管ニッチの存在は、iNSCを介した神経再生機構における重要な鍵となることが示された。
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