前年度から引き続き、刺激の個数や回数などの認知・識別、および短期記憶についての神経細胞・回路の数理モデルの構築・検討を行った。細胞レベルのモデルに関しては、細胞膜の膜特性や膜上のイオンチャネルの特性・空間分布、特に樹状突起上の電位依存性チャネルが、入出力特性に与える影響などを詳しく検討・解析して、特定の周波数に選択性を持った応答が起こる現象、及びその背景となる機構などについて新たな知見を見出した。また、実際の大脳皮質などの神経細胞において顕著に起こることが知られているシナプス短期可塑性について、生理学実験データも踏まえて詳細な検討を行い、入出力特性への影響およびそのメカニズム、また神経細胞間結合の種類による違いなどに関して新たに有用な知見を得た。回路レベルのモデルに関しては、興奮性再帰結合によって短期記憶を保つような局所神経回路、および、局所回路を複数結合した回路のモデルの構築を進め、上述の細胞レベルの研究で得られてきたような現象・機構も考慮して、いかに数の処理が実装されうるかを数値シミュレーションによって検討した。一方、それらと並行して、数の比較や演算に関して、それらが具体的に用いられる顕著な例として、報酬の量の予測や評価、およびそれに基づく意思決定に着目し、実際に、人間の被験者を対象として、そうした意思決定課題の心理実験を実施した。そして、意思決定に際して、選択肢から予測される報酬の大きさおよび不確実性の双方がいかに考慮されるかなどに関して、モデルに制約をかける上で有用と思われる知見を得た。
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