ヒト言語障害変異に対応する変異Foxp2(R552H)-ノックイン(KI)ホモマウスは小脳発達障害を示し、生後1週間以内は異常を示さないが、その後USV障害とプルキンエ細胞の発達異常とシナプス形成不全に関連する運動性障害をもつとともに、母親の育児放棄で授乳されない状態により、生後3-4週間で餓死する。仔マウスは超音波領域(Ultrasonic Vocalization;USV)で母親とコミュニケーションをとる。マウスFoxp2は、ヒトFoxp2との相違が少なく、ポリグルタミンのグルタミン残基が1つ少ない他、アミノ酸置換が2箇所存在する。本研究はFoxp2(R552H)-KIマウスの機能障害の解析を基盤として、USV(言語)能力獲得に必要な分子機構を明らかにすることを目的としている。これまでの解析を通して、Foxp2のフォークヘッド領域が持つ転写制御機構はヒト言語とマウスUSVに関与しており、マウスとヒト脳において共通の分子機構をもつことを見出してきた。 本年度(平成22年度)は、Foxp2(R552H)-KIマウスおよび正常マウス脳で発現する遺伝子について解析し、Foxp2が制御するUSV(言語)関連遺伝子の候補を5つ見出し、関連遺伝子の確認に免疫染色、プルダウン解析、免疫沈降などの生化学的、細胞分子生物学的手法を用いて行なった。さらに作製した正常Foxp2を小脳に発現させたFoxp2-トランスジェニックマウス(Tg)マウスを用い、小脳プルキンエ細胞でFoxp2により制御する遺伝子の解析を行ない、数種の候補遺伝子を得た。またFoxp2(R552H)-KIマウスのC57BL/6Jへのバッククロスを10世代まで行なった。次年度に、Foxp2-Tgマウスと交配させ、解析する予定である。
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