研究概要 |
本研究は、脳由来神経栄養因子受容体TrkBのサブタイプについて、詳細に分子から行動レベルまで解析することにより、神経回路安定化の分子機構の解明を目的としている。この目的を達成するために、昨年に、TrkBサブタイプを、in vivoでノックダウンさせることのできるsiRNAレンチウイルスベクターと抗T1モルモットポリクローナル抗体の作製に成功した。 胎児期の脳室に作製したTrkB受容体レンチウイルスベクターの投与法を確立するために、諸条件の検討を行ったが、インジェクション後の胚の発生が上手く進まなかった。次に、生後7日のマウス皮質にTrkB受容体レンチウイルスベクターを感染させたところ、実験に使用したマウスの数が少なく生物検定にかけられないが、siRNAウイルスが感染した神経細胞の樹状突起の長さが短くなり分枝数も減少していることが明らかになった。今後マウスの数を増やすことを予定している。 これまでに、我々は、成体大脳皮質1層に虚血依存的にGABA作動性神経細胞を産生する神経前駆細胞(L1-INP細胞)の存在を明らかにしている(Ohira et al., Nature Neuroscience 2010)。TrkBには細胞内にチロシンキナーゼのあるTK+とチロシンキナーゼを欠いたT1の2種類が存在しているが、TK+を発現しているL1-INP細胞の割合は低いが、ほとんどのL1-INP細胞はT1を発現していることが明らかとなった。T1がL1-INP細胞に対して、何らかの役割を果たしている可能性が示唆される。今後、細胞分裂、分化などに対するT1の機能について解析していく予定である。
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