これまでの研究から、嗅球から終脳への軸索投射には、軸索ガイダンス分子として知られるセマフォリンが複数関与しており、それぞれのセマフォリンが異なる役割を担うことや、異なるセマフォリンのシグナルがクロストークすることを示唆する予備的な結果を得ていた。そこで本研究では、嗅球の軸索投射をモデルとして、複数のセマフォリンシグナルが協調的に軸索投射を制御する仕組みについて明らかにすることを目指している。21年度の研究として、まず、セマフォリンシグナルを構成する遺伝子について、嗅球軸索やその投射経路における発現パターンを免役染色やinsituハイブリダイゼーションによって明らかにした。次に、培養アッセイ系を用いて、これらセマフォリンシグナルを構成する各種遺伝子を欠失したマウス胚における嗅球軸索のセマフォリンに対する応答能の変化を解析した。さらに、これら遺伝子を欠失した嗅球軸索の投射パターンを明らかにした。結果として、まず培養系を用いた解析で、一部の受容体分子を欠失した嗅球軸索は、本来のリガンドに対する応答性を失うと同時に、新たに新規のガイダンス分子に対する応答性を獲得することがあるというデータを得た。このことは、複数のガイダンスシグナルが複雑にクロストークしながらシグナルを伝えていることを示唆している。また、そのようなクロストークが実際に生体内でも起こっているのか、さらに、そのようなクロストークの重要性について、遺伝子欠失マウスの表現系を中心に解析を進めたところ、確かに培養実験系で確認したようなクロストークが機能していること、さらにそれらクロストークは帰納的な神経回路の形成に必要であることを示唆するデータを得ることができた。
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