研究概要 |
本研究はアルツハイマー病(Alzheimer's disease : AD)脳に特異的に蓄積するAβの産生を担う酵素であるγセクレターゼに関して、プロテオミクスの手法を用いてγセクレターゼ結合蛋白質を同定し、γセクレターゼの酵素活性や細胞内局在に影響を及ぼす蛋白質を多角的なスクリーニング方法を用いて探索する。その中でも特にリピッドマイクロドメインへのγセクレターゼ複合体の局在に着目し、リピッドマイクロドメインを構成する蛋白質によるγセクレターゼの機能制御メカニズムの解明を目指し、ひいてはγセクレターゼを標的としたAD治療法開発の手がかりをつかむことを目指すものである。 我々は活性型γセクレターゼを生化学的に精製し、LC-MS/MSを用いたγセクレターゼ複合体結合タンパク質の網羅的解析により、複数の検討で同定されたテトラスパニンおよびテトラスパニン結合蛋白質に着目した(Wakabayashi et al., Nat Cell Biol, 2009)。γセクレターゼとの結合が明らかになったテトラスパニンのうち、細胞に主要に発現するCD81およびCD9を欠損したマウス由来の細胞および脳組織では、APPのみならず、カドヘリン等複数のγセクレターゼの内因性基質タンパク質の切断が減少していることが明らかになった。また、テトラスパニンに対する抗体を用いた機能阻害実験を行ったところ、抗体の添加により、γセクレターゼによる基質の切断が減少することが分かった。これらの結果から、内因性のテトラスパニンが形成する細胞膜上のマイクロドメインが、γセクレターゼと基質の切断の場となっていることを明らかにした。 γセクレターゼの切断機構の解明はAD創薬研究の重要なターゲットであり、今後はこのマイクロドメインによるγセクレターゼ活性の調節機構を細胞内タンパク質輸送や構造的な観点からより詳細に解析していくことで、本研究で明らかにした結合タンパク質がAD治療薬開発の有望な標的となる可能性が考えられる。
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