ヒト疾患脳内において特徴的なα-synucleinのSer129リン酸化が発症に与える影響を解明する目的で、Ser129をアラニンに置換したS129A型(非リン酸化型)α-synuclein Tg線虫、及びアスパラギン酸に置換したS129D型(リン酸化模倣型)α-synuclein Tg線虫を作出した。その結果、S129A型Tg線虫は重度の運動機能障害や成長遅延を示すこと、一方S129D型Tg線虫は目立った異常を示さないことが分かった。興味深いことに、S129A型Tg線虫では神経細胞脱落やシナプス脱落は認められないものの、膜結合型α-synucleinの量が野生型α-synuclein Tg線虫やS129D型Tg線虫に比して顕著に増加していることを見出した。次に、膜結合性を低下させることが知られているA30P変異をS129A変異に加えて導入したA30P-S129A型α-synuclein Tg線虫を作出した。その結果、このTg線虫は目立った異常表現型を示さず、また膜結合型α-synucleinの量が大きく減少していることを確認した。以上より、膜結合型α-synucleinが神経毒性を発揮すること、Ser129のリン酸化はα-synucleinを膜から引き離すことにより神経毒性を軽減させることが示唆された。続いてα-synuclein神経障害の背景にある分子機構を明らかにするため、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現変動解析を行い、寿命決定や酸化ストレス応答に重要な転写因子daf-16の下流遺伝子群がS129A型Tg線虫において強く活性化していることを見出した。さらに順遺伝学的手法による検討から、X染色体の約1cMの領域に含まれる遺伝子変異がS129A型Tg線虫の運動機能障害を改善させることを見出した。以上の結果は本年7月の東アジア線虫学会において報告した。
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