アルツハイマー病病理の中心的役割を果たすとされるAβ産生において、APPのBACE1によるβ切断が第一段階となる。一方、APPはADAMファミリーをはじめとするセクレターゼによるα切断も受け、この場合はAβは産生されない。これら2種類の切断は競合的な関係にあるため、Aβ産生を抑制する戦略としては従来のBACE1を阻害する方法に加え、α切断を亢進させる方法が考えられる。ただし、ADAMはAPPのα切断だけではなく、生理的機能に関わる多くのタンパク質の切断も担っているため、APP切断特異的な活性化機構とそれ以外のタンパク質に対する切断活性調節機構について調べる必要がある。本研究ではAPPと同様にBACE1とADAMの両方で切断を受けるタンパク質であるニューレグリンについて検討を行なった。BACE1による切断とADAMによる切断を区別するために、ニューレグリンのBACE1切断端と予想される部位に対する抗体を作製したところ以下のことが明らかとなった。1)当該抗体は切断端を特異的に認識する。2)細胞内でのBACE1による主な切断部位は予想された部位と一致する。3)ニューレグリンのADAM切断部位とBACE1切断部位は異なる。4)当該抗体は、ニューレグリンの切断量をELISAおよびウェスタンブロットで定量に用いることができる。5)当該抗体は生細胞表面において、切断されたニューレグリンの可視化が可能である。 この抗体を用いて、細胞内のADAM切断が行なわれる部位、切断活性化機構について調べ、APPとニューレグリンを比較検討することにより、APP特異的なADAM切断亢進機構が明らかになると期待される。
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