研究概要 |
帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛は難治性の神経因性疹痛疾患である。痙痛のメカニズムは未だ不明であり,また既存の鎮痛薬に抵抗性を示すため,新規鎮痛薬の開発が急務となっている。研究代表者はこれまでの研究で,当該疾患の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)のタンパクIE62に対する抗体が,BDNFの活性を上昇させ,末梢神経損傷による神経因性疾痛モデルマウスの痙痛反応を増強することを見出した。平成21年度の研究において,研究代表者がすでに確立している単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染によるマウス帯状疱疹痛を,抗IE62抗体が増強することを見出した。また,帯状疱疹後神経痛への移行率もIE62抗体投与群で増大することを見出した。平成22年度の研究においては,これらの疾痛増強メカニズムを解明する目的で,研究を遂行した。 脊髄後角においてHSV-1感染により変動する遺伝子をGeneChipシステムを用いて網羅的に解析した。その結果,139個の遺伝子がHSV-1感染により発現上昇することが分かった。中でも,17倍に増大したgalectin-3(Gal-3)についての詳細な解析を行った。Gal-3は,脊髄後角表層のマクロファージ/マイクログリアに発現しており,神経細胞,アストロサイト,T-細胞には認められなかった。Gal-3欠損マウスにおいてHSV-1誘発の痺痛反応は減弱し,Gal-3リコンビナントタンパクを脊髄くも膜下腔内に投与すると,アロディニアを誘発した。以上の結果は,Gal-3がHSV-1誘発の痺痛反応に関与することを示すものである。IE62抗体を投与したマウスの脊髄後角におけるGal-3発現量は,NormalIgG投与群と比較して有意な差は認められなかった。以上の結果より,帯状疱疹痛には脊髄後角におけるGal-3が関与していることが示唆されたが,IE62抗体による痛覚増強メカニズムにはGal-3は関与しない可能性が示唆された。
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