EMAPIIは細胞死によって誘導されるサイトカインである。我々の研究からEMAPIIは神経系において脳梗塞巣で強く発現しており、増殖分化関連因子と予測されるFILIP1Lの発現を制御しうることがわかってきた。本研究は、脳におけるEMAPIIの作用機構を研究し、脳内で起こる細胞死と神経新生を結ぶシグナル機構を明らかにすることを目的とする。今年度、我々は、正常状態のEMAPIIの発現を調べる目的で、成体マウス脳でのEMAPIIとFILIP1Lの発現を組織化学的に解析した。免疫組織染色の結果、EMAPIIは嗅球の僧帽細胞に多く発現しており、その一方、FILIP1Lは嗅球細胞全体に発現することがわかった。このことは、嗅球で僧帽細胞から分泌されるEMAPIIが周囲の細胞に作用して、FILIP1Lの発現を制御している可能性を示している。EMAPIIは細胞ストレス等の刺激により切断を受け成熟型となり、細胞外へと分泌されることが知られている。そこで、成熟型のEMAPII組み換え蛋白質を精製し、神経幹細胞に作用させ、その増殖に与える影響を調べた。EMAPII存在下で6日間神経幹細胞の増殖能について検討したが、細胞増殖への影響は認められなかった。さらに、EMAPIIによって細胞内で誘導されるシグナル経路に関して検討を行った。EMAPIIは繊維芽細胞においては、ERKのリン酸化を介して創傷治癒を促進することが知られており、受容体候補分子CXCR3は3量体G蛋白質G-alpha iと共役し下流でERKの活性化を引き起こすことが知られている。そこで、神経幹細胞にEMAPIIを作用させ、ERKの活性化をERKのリン酸化を指標に解析したが、活性化は認められなかった。今後、EMAPIIの受容体候補分子の脳での発現解析、神経幹細胞や嗅球神経細胞を用いた細胞分化・遊走におけるEMAPIIの機能解析、シグナル経路解析を行う。
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