研究課題
本研究は、脳におけるEMAPIIの作用機構を研究し、細胞死と神経新生を結ぶシグナル機構を明らかにすることを目的とする。前年度、EMAP-IIが大脳皮質の脳梗塞巣で発現が誘起されること、増殖分化関連因子と予測されるFILIP1Lの発現を制御しうることを示した。本年度、EMAP-IIが神経幹細胞自身に発現しており、分化に伴い発現量が減少することを明らかにした。受容体候補分子CXCR3の発現が海馬、脳室帯、嗅球といった神経新生の起きている領域に認められることからも、EMAP-IIがautocrine分子として作用している可能性を示唆している。そこで、EMAP-IIの組換えタンパク質を作成し、分化誘導中の神経幹細胞に作用させたが、神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化割合には影響しなかった。次に、大脳皮質でのEMAP-II、FILIP1Lそして受容体候補因子の発現様式を解析した。成体マウス脳を用いた組織免疫染色で、正常時の大脳皮質は嗅球と比較してEMAP-IIの発現が低かった。また、FILIP1Lの発現をin situ hybridizationで調べると、大脳皮質ではほとんど発現が見られず、嗅球に多く発現しており、2つの分子の発現領域は相関していた。また、EMAP-II受容体候補因子であるCXCR3も嗅球で高い発現が見られている。この結果は、細胞死と神経新生に関与する分子であるEMAP-IIとFILIP1Lが、正常時の脳内で、細胞の入れ替わり、すなわち細胞死と新生された神経細胞の補充が繰り返されている嗅球において、神経細胞の増殖や分化を制御しているという考えを支持するものである。そして、本研究で明らかにした、脳梗塞ストレス下の大脳皮質血管周囲における発現上昇は、血管周囲に存在するとされる神経幹細胞に働きかけることで、その増殖と分化を制御していることを示すものである。
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