ニューロンは長い軸索と樹状突起をもち、突起にあるタンパク質はその合成の場である細胞体から供給されます。こうした他の細胞には見られないニューロンだけの特徴が、様々な現象とこれまでの知識の間においてパラドックスを生じさせます。例えば、記憶のモデルとされている長期増強(LTP)には、新規タンパク質合成が働くと長期間増強効果が持続し(late-LTP)、新規タンパク質合成が働かないと短期のLTP(early-LTP)として60-90min程度で増強現象はなくなってしまいます。新規に合成されたタンパク質は、どのようにしてもたらされるのかが、大きな焦点となってきました。特に、late-association(後期連関)という現象がこれまで既存のモデルでは説明出来ませんでした。そうしたなかFreyとMorrisは海馬スライスを用いた実験により後期連関可塑性を説明出来るモデルを提唱致しました。シナプスタグ仮説です。活動依存的にシナプスレベルで活動履歴の目印として『シナプス・タグ』が形成されるのではないかと提唱しました。しかしながら、そのシナプス・タグの実体は不明です。そこで、本研究は、シナプス・タグが存在することの証明を目的とした。今回、LTP特異的シナプスタグの形成機構の最初期過程に神経可塑性関連プロテアーゼ・ニューロプシンが深く関わっている事が明らかとなりました。また、そのニューロプシン・特異的シナプスタグ形成機構にはlntegrinB1やCaMKIIといったシグナル分子の関与も明らかとなった。一方、LTD特異的シナプスタグ形成機構にはニューロプシンは関与しない事が明らかとなった。
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