研究概要 |
生育環境が原因となる精神疾患において,幼少期の経験により形成された前頭眼窩野の神経回路が安定化し,消せないことが問題ではないかと考え,神経細胞形態の安定化に関わるRhoA/p-LIMK/p-Cofillin/DrebrinA経路の発達変化を調べ,前頭眼窩野では臨界期が知られておらず,成熟後でも逆転学習が可能なのは新たな神経回路の形成は成熟後でも可能であるからではないかと考え,神経細胞の形態変化(シナプス形成)を促進するErk2, p35/Cdk5の発達変化を調べ,臨界期研究の進んでいる一次視覚野と比較してきた。結果,形態変化促進分子は視覚野では臨界期に多く,成熟後に減少するが,前頭眼窩野では増加後成熟しても減少しないことや,形態安定化分子は視覚野,前頭眼窩野共に発達途中にもっとも低下していることを明らかとしている(低下時期は視覚野では臨界期の生後30日頃であるが,前頭眼窩野では生後40-50日頃)。さらに,Cdk5によりリン酸化され,形態変化に関わることが知られるp-CRMP2やp-Pak1については,いずれもCdk5とは異なり,生後10日齢に最も多いこと,また,p-Aktについても,生後10日に多く,p-ErkやCdk5とは異なる発達変化であることが明らかとなった。さらに,成熟期視覚野では海馬に比べ,DrebrinAが多く,小脳では少ないことも明らかとなり,視覚野では成熟後に神経回路の消去が難しいが,小脳では簡単であることが示唆されている。次に以上の結果を踏まえたうえで,母子分離によりストレス脆弱性を示すようになった成熟動物の前頭眼窩野に安定化に関わる分子の阻害剤を注入し,豊環境に置くことでストレス脆弱性を示すのかを調べるが,現在のところ,前頭眼窩野に試薬を注入するのに使用するカニューレを作製し終え,豊環境ケージを作製し,行動実験装置を準備しているところである。
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